一 卵 性 双 生 児






カノン追走曲




厭み嫌い それでも 愛していたと
愛を囁く人よ

それが愛だと 俺は 知る術もない

知る必要も ない

溢れ出る 体液を
破られた 皮膚よ

もどかしい 痛みだから

まだ いい

お前と 同じで
それでも 違う

追いかけるばかりの 自分

許される 筈は ない

 鏡

サガで俺で

二人でなければ

二人である
意味は ない

欠ければ お前も ?

だから
許されない

血は 流れた

罪の ように
誰かの 死のように

とろり とろり

俺を 伝い
お前 に 流れた

治癒 できぬ 傷口

止まることを知らぬ安らぐことも知らぬ
分かち合い
生きると いうことも

流れる 時間
流れた 星達

奇跡の 些細な 一生

俺でありお前でありサガであり
カノンであるというなら

終わりの 日 まで


許される
ことであるなら


お前を 忘れない

















流れ星




『ずっとずっと一緒にいられますように』


丘の上で二人、流れ星に願い事をした。


僕たちは、変化を望まなかった。


いいや、ただ傍にいたいだけだったんだ。

















スターゲイザー




サガが体調を崩した。
無理して何でも独りでこなそうとするからだ。馬鹿め。
「何も食べたくない・・・」
俺が懸命に奮闘して作った粥を見てもこのザマだ。
食べ物を見ていると吐き気もするのか、そっぽまで向かれた。
少し傷ついたぞサガよ・・・。
普段ならば、「カノン、お前は食生活が乱れ過ぎている!」とか
「早寝早起きを心掛けろ!」とか
お前がウザイくらいに俺の世話を焼くというのに。
いや、実際、本当にウザイのだが、こうなってしまうと何だか調子が狂う。
この山のような書類をサガが独りで黙々と片付けていたと思うと眩暈がする。
「こんな書類、アイオロスにでも押し付ければ良かろう?」と俺は言ってやった。
「そんなこと・・、出来ない・・・」
サガの心からすまなそうな返事。
そうか、お前もアイオロスと同じくお人好しな部分があるもんな。
もしかしたらアイオロスも大量の書類を相手に奮闘しているのかもしれないし。
「俺も倒れそうな予感がする・・・」
書類と食事の後片付けと、これから自分がしなければならない事を思い浮かべて、
がっくりと肩を落とし、俺はサガが眠るベットに突っ伏した。
「とりあえず、他の奴らも巻き込んでやる・・・」

やはり、お前が何時も通りでないと俺が困る、困る。

















愚かだね



地位に囚われた、嘘吐きのお前。
少しずつ歪み、戻らない世界。
狂ったのはどちらが先か。
愛が憎しみへと変わったのはいつの話だ。
歩みを変えて互いを見捨てたのは、もはや、どちらの為だったのだろう。

















運命共同体



元々はひとつだったものがふたつに別れた俺たちは
どんな宿命を持ってこの世に生を受けたのだろう。
与えられた運命を誰が祝福してくれるのだろう?
本来はひとりの人間になる筈だった俺達の心。
だから俺たちは別々の心を持っているのだろうか。
俺が悪意、サガが善意、
ふたり揃ってやっとひとりの人間になれるのか?


 なあ

 サガよ。


こんな未完成でアンバランスな関係が哀れだな。

















複雑思考なぼくら



「サガ、お前の為なら」って
「カノン、お前の為だよ」って
どうしようもないくらい俺を見て俺だけを憎んで。

そして少しで良いから愛して。

















おわりを



「なあ 私たちはどうしてふたりなのだろうな」
「不満か」
「いや、お前こそどうなのだ」
「今更どうでもよかろうそんな事。ただ、俺たちがふたりに選ばれただけの事」
「そうだ、な」


だけどお前の瞳は寂しいよ。
私が、本当に聞きたかった言葉は。

(どうして私が先に生まれ、お前が後だったことなのだと)


なあ、お前が言いたいことなど分かっているのに、お前はすぐにはぐらかす。
俺はお前に気が付かれないようにはぐらかされる。
お前が言えないのは俺への優しさか。
分かっていて俺がそれに答えるのは俺の弱さか。
もう俺とお前の間に在るのは絆ではなく溝なのだろうな。
そんなこと、俺もお前も分かっているから昔の俺たちには、


きっと、もう、戻れない。

















片割れのカノン



少しずつお前としての「時間」は無くなり、

お前の「名前」も私しか呼んでやれなくなった。


















幼い双子と午後のはなし



..............パラ...パラパラパラ....


「小雨か」

昼前から降りそうな天気だったが。
机に肘をつき、窓の外を見ながらカノンは項垂れた。
別に暑くも寒くもないが雨はこんな気分にさせる時がたまにある。
目の前にはまだ手を付けずにある料理。
冷めてしまうだろうスープだけはまだ皿によそっていない。
カノンは独りでサガの帰りを待っていた。
暇つぶしにと近くに置いてあるサガの本を手に取り眺めるが、すぐに顰め面をして
本から目を逸らす。天文学に神話学、びっしりと綴られた古い書物たち。

「・・・・・・・・・」

こんな本を読んでどこがどう楽しいのだと相変わらず疑問に思う。
問えばサガの蘊蓄やらが終わらんだろうから聞くことはないが。
双子ながらまったく理解できんのだ。サガは。サガという男は。
それにしても遅い。まったく弟を待たして何が楽しいのかサガよ。早く来い。
早く帰ってきて俺に話しをしろ。聖域のことを、聖闘士のことを、今日のお前の出来事を。
ああ早く食事に手を付けさせろよ。
雨も止んでしまったぞ。
1時までには帰ると言ったのに。
もういい加減待ちくたびれたぞサガ。

「済まない。遅くなった」
「遅・・・。なんだそれ?」
「本。帰りに図書館に立ち寄ったら雨が降ってきて。本が濡れてしまうから」

・・・だから帰りが遅くなったわけだ。
だから雨は嫌いだ。

「カノンも読むだろう?」

お前が読む小難しい本も嫌いだ。

「それより早く椅子に座れよ。で、食おう。待ちくたびれた」
「ああ、そうだね」
「で、話せよ」

俺は少し冷めたスープを皿によそりながら言う。
背中にサガの声が聞こえた。

「今日は何を?」

今の話がいい。俺は今が知りたい。
本なんかじゃなくて、お前の博識の口で俺に話せばいいんだ。
そうすれば退屈になんてきっとならない。

あとは、あれだ。
取りあえず

次からはもっと早く帰ってこい。

















星のつぶやき



私とお前は同じで、それでも違う人間であったから、
進むべき願いは同じだったけれど、進むべき希望は少しずつ断ち切られた。

これが、

宿命であるかのように。

















 残像



「俺とサガの為だ」と、返り血にまみれたカノンの姿が、

この瞳に鮮明に焼き付いた。

















一卵性双生児



ふたりであるということ

双子であるということ

サガであるということ

カノンであるということ

紛れもない真実と

乱れもしない遺伝子