ずぶ濡れだから

あいつがひとりで、雨に打たれて濡れていた。
誰も手は差し出さない。
俺も。
だから俺も
別に真似したいわけじゃない。
ただどう見方が変わるのか試しに雨に濡れてみたんだ。
途端に雨の音しか聞こえなくなる。
「・・・・・・」
やっぱり、ひとりで濡れるのはいい気分じゃないな。
でもこんなにも雨が降っているから
涙を隠すにはちょうどよかった。









傷口

いつからか笑顔を絶やさずにいた。
でも一度だけ、それでも長い間、あいつへの笑顔だけを忘れた。
傷つけただろうか?傷つけただろうな。
だから今度こそお前に、俺の「本気」の笑顔を見せてやる。
お前にしか見せられないんだよ。この笑顔は。
なんでって・・・
他の誰かが俺に惚れたら困るだろ?
やっと乾いた彼の傷口がまた傷ついて、もう二度と濡れることのないように。










俺はお前という男がわからない。
聞いてないと思えば、言ったことは的を付く。
おかしな奴。
だから分からない。
お前の瞳はまるでエーゲ海のようだと思った。
鮮やかな青が金の光を受けてもっともっと輝くのはお前だけの特権なのだと。
幼かった日の俺は、少しだけそれが羨ましかったのを覚えている。
するとお前は
俺の瞳の色が羨ましいなんていうんだ。
馬鹿げているだろう?
俺はお前の瞳の青が誰よりも好きだというのに。











少女趣味

「なんだこれは?」
ちょうど目に入った
天蠍宮のダイニング(?)に置いてある少し大きめの木箱。
「ああ、それか」
その場に座り木箱の紐を解くミロ。
覗き込む俺。
「ほら」
ミロが手にしたものは瓶詰めのジャム。
ストロベリー、マーマレード、ブルーベリーに・・・・・。
赤、オレンジ、色とりどりのジャム。
「実家から送られてきたんだ」
「手作りか」
本当は嬉しいのだろう。
その言葉に困ったようにミロは苦笑した。
「ああ。毎年、母がな。お前にも1個やるよ」
ほらよ、と手渡された瓶の中の赤いジャムが揺れる。
「一度、お前にも食べさせてやりたかったんだ」
俺の母さんのジャムの味は格別だからと。
こんどこそ笑顔で。
俺は自宮に帰って貰ったストロベリージャムを舐めてみた。
口いっぱいに広がる甘酸っぱさ。
美味い。
が、「甘い・・・」
―――だから
あいつとのキスは 甘いのだろうか?











お前がいつか俺の前から姿を消しても、
俺達が別々の道を選んだとしても、
後悔なんてしたくはないから
今を、精一杯お前と共に歩いていこうと思う。
離れても俺達は生きていける
お前がいないだけ
互いのことなんて忘れてしまっていいんじゃないか思い出したい時にお前を思えばいいんじゃないか
それも友情とか、仲間とか、ひとつの愛なんだろう。
そうなんだろうと俺は思う。
思うけど ?
・・・・・・・・。
宜しければ、俺は未来もお前と共に。











週末

部屋の掃除をして。
二人で海でも見ながら似合わないティータイムでもして。
何を喋ったかなんて明日には忘れてしまうだろうけど、
たまにはこんな日もいいのだと思う。
こんな日常でさえ、あの日と比べればとても幸せだと思えるだろ?
些細な話でお前が笑って。俺も、もっと笑う。
永遠などないものだと知っている。
だから、今が幸せでさえあればそれで別にいいんだよ俺は。