「あ」
「あ」
此処はギリシャ―商店街、市場のど真ん中―そんな場所で二人の男が出会った。
ミロは何時も通り買い出しに来ていた。
ラダマンティスは旅行中の買い物に来ていた。
二人が今、まさに手に取ろうとしていたのは、残り最後の一つのリンゴ。
そのリンゴを挟むかたちで、ミロとラダマンティスは対峙してしまった。
(こいつは確か・・・)
ラダマンティスの脳裏に蠍座の黄金聖闘士の姿が蘇ったが、
「お前はハーデスとの戦いで俺を冥界に落としたラダマンティスとかいう奴だな」
ジロリと睨むミロの視線に戦慄を覚えたラダマンティスは思わず、
「や・・・やる気か!?」と身構えた。
ラダマンティスは冥闘士として黄金聖闘士のミロと同じ強さを持っていた。
だが冥闘士は聖闘士とは違い、冥衣を脱げば普通の人間だ。
幼い頃から心身ともに鍛えぬかれ、並外れた聖闘士の力の前では、
冥衣を脱いだ男など赤子同然のことだろう。
ラダマンティスは嫌な予感がしたがそのプライドの高さから引き下がることも出来なくなった。
だが次のミロの行動は予想とは反したもので・・・
「う?」
自分の肩に置かれた手にラダマンティスは頓狂な声をあげた。
しかもミロの顔には満面の笑顔が浮かんでいる。
「ギリシャ観光か?」
「は?」
ミロの想像とは違った態度に何が何だか分からないとラダマンティスは唖然とするばかりだ。
「俺は別の店を知ってるし、そっちで買うから。此処の店のは美味いからオススメなんだ」
「え、はぁ・・・」
「じゃあな!ギリシャを満喫していってくれよ!アディオ!!」
そう言って走っていってしまった。
素早く去っていったミロに、いまだ唖然としていたラダマンティスだったが、譲られたリンゴを買い、
先程のミロの笑顔を思い浮かべると(意外に良い奴だな・・・)とか思ってしまうのであった。
一緒に観光に来ていたミーノスとアイアコスの元に帰るラダマンティスの後姿もなんだか嬉しそうだった。