俺はミロとふたりで旅に出ていた。
旅とはいっても豪華な旅行とはかけ離れたものであったし、その期間も短い。
そして今日は旅の終わりの三日前だ。
現在、俺たちの目の前には地の果てまでも続いているような感覚を覚えるほどの花畑がある。
色とりどりの花はとても美しく咲いていて、風が吹くと、それに答えるように揺れた。
修行ばかりで周りには目もくれなかった幼い頃。
思い出の中を探しても咲き誇る花の記憶は、ない。
哀れ・・・・・・か。
初めてゆっくりと花が見れる時が来たのが戦場に向かう前だと言えば 村人には笑われることだろう。
その表情は苦笑混じりの同情かもしれない。
「でも、それが普通だった」
最後の言葉は声に出ていたらしい。
「何を考えていたんだ?」
ミロの問いかけによって俺は現実に引き戻された。
別に話すような内容でもない。
「いや、なんでもない」
とだけ俺は答えた。
「・・・ならいいけど」
ミロは少しの間、俺を見ていたが、そう言うと同時に視線を花畑へと戻した。

「綺麗だな」
暫くするとミロが呟いた。
先ほどから何度も言っているだろうと思わず言いかけたが、本当に綺麗だから言うのはやめた。
「ああ」
と俺は短く返す。
「なあ、・・・俺が死んだらここに埋めてくれないか」
ミロが急に口にした言葉に俺は眉を寄せる。
ミロは誰よりも自分に自信を持っているような華やかな男だが、 突然馬鹿みたいに真面目な顔で、 これもまた突然、
一瞬では理解できないようなことを俺に言うのだ。

・・・・・・それ、嫌味だな。
お前が死んだ時には、俺だって死んでいるはずだ。
眠る墓など選べない。みな、戦場で朽ち果てていく運命だ。
しかし、それは守りぬいて死ぬということだ。
野垂れ死になどしたらこの場所も無くなってまうことになる。
だから守り通せばいい。
それが戦士である俺たちの宿命であって、義務だ。
ミロ、お前は何を今更。
「恐れ、か・・・?」
ミロは違うと首を横に振った。
「冗談だ」
そう言ってまた視線を花に戻した。

ミロは言った。
俺たちが守りぬいたあとで、先の未来に争いが起こらんことを。
そうすれば俺も安らかに眠れるから、と。

この鮮やかな花畑を眺めながら。