この想いが届いたかは知らない




side:c
冷たい。冷たい手。
ずっと言われ続けてきた。
だから、表情まで、心まで冷たいのだと。
この日から私は笑うことを忘れてしまったんだ。
そんな折、お前に出会った。
金の髪と青い瞳の、笑顔が誰よりも眩しい子。
私が望むものをすべて持っているような、私とはまるで正反対のような子。
どうして私の後をついてくるんだ?
お前なんか嫌いなのに。
友達なんて・・・・・いらないのに。
でも、
お前は、
全てを理解しているように、私の手を取って、
「でもさあ、手が冷たい分、心は温かいって聞いたことがあるよ」
「・・・・?」
「俺は、カミュは本当は誰よりも優しくて温かいんだと思う」
「・・・!」
私がどこか、心の奥底で望んでいた言葉を与えてくれた。
・・・・・お前は本当に。
お前こそ、お節介で誰よりも温かい。
・・・私は、
お前に出会えて本当に良かった。
お前がいてくれて本当に嬉しかった。

だからこの手がどんなに凍えようとも、私の心まで凍りつくことはなかった。











消失点

思い出が跡形もなく消えるなんて出来なくて。
此処はまるで、俺は何をしてきたのだろうかと、
今きっと俺の心は、少し前の聖域よりも歪んでる。
地上を守るべき聖域の悪は根絶え、平和が訪れた。
その代わりこの世に一人しかいないカミュと言う名の大切な友を失った。
あいつは望んで逝ったんだろう。
でも、俺はその最期を見届けていない。
大切な弟子が自分を超えたことをなんとも誇りに嬉しく思ったことだろう。
でも、本当の結末はこうではなかった筈だ。
氷河を先に行かせたのは俺だった。
でも、だが・・・っ!!
こんな別れ・・・・・・・・
カミュは、俺の誇りでもある友人は、ここで死ぬ男ではなかった筈だ。
カミュは氷河に全てを託していってしまった・・・。
師とすれば、それはなんとも偉大で素晴らしきこと。
だが、友としたら失格だ・・・・・こんなの反則だろう、カミュよ・・・!

「ミロ、お前らしいな」と言うお前が、俺の傍にいることが
自分でも気がつかない内に当たり前になってしまっていた。
お前は考えられないくらい先に逝ってしまったが、
だから今度は俺が「カミュ、お前らしい」と言う番だとでもいうように・・・

忘れられないのは何時までも残された側で、
あいつは空の上で平和になった聖域を見て笑っているのだろうか?
凍りついたカミュの手。
宝瓶宮は未だに溶けない氷の中。
それは美しい柩のようだった。

・・・・安らかに眠ってくれ、カミュ。
でも、忘れて欲しくない・・・・俺達のことを。
俺がお前の元に逝く日まで、
たまには「ミロという男がいたな」と頭の片隅でもいい。思い出して欲しいんだ。











side:m 
泣くな、泣くな、泣くな、泣くな、

涙を流すために来たんじゃない。
決意をしに来たんだ。
お前の墓石に花を置き、
お前の心を受け継ぐ為にも堂々と前を見据えればそれでいい。
泣くな、泣いてしまうな。
これからもっと強くなる為に。
・・・泣くなよ。

―――― いつから
俺はこんなに涙もろくなったのだろう。
お前に出会ったから?
お前がもういないから?
・・・・・涙、こらえきれないんだ。

泣くなってお前は言うだろうけど、
もう、
もう、泣いてもいいだろう?
お前の為に泣かせてくれ。
泣きたいんだよ。

今、だけだ。

これが済んだらもっと強くなるから。

誰よりも強くなると誓うから。